血漿分画製剤のいろいろ

血液製剤・血漿分画製剤・血液製剤が必要となる病気の種類などを学ぶことができます。

血漿分画製剤のいろいろ

その他の製剤

プロテインC製剤・活性化プロテインC製剤

1.プロテインC・活性化プロテインCの役割

血管が破れ出血したとき、まず血小板血栓(一次止血)が破れをふさぎ、次に凝固因子が次々に反応してフィブリンの膜が血小板血栓を覆い、フィブリン血栓が形成されます(二次止血)。

この二次止血は主に3種類の反応系*で制御されていて、それらのひとつの機序としてプロテインCが働いています。これらの制御系は①凝固が血管の破れたところにだけ起こるようにする働きと、②血栓が不必要にできすぎないようにする役割を担っています。

プロテインCが関係する機序としては、二次止血の凝固反応が進む中で作られるトロンビンがトロンボモジュリンというタンパク質と結合して、その複合体がプロテインCを活性化プロテインCに変え、その活性化プロテインCが凝固反応で生じた活性化第Ⅷ因子(Ⅷa)と活性化第Ⅴ因子(Ⅴa)を分解し減少させることにより、次から次へと新たなトロンビンが作られていくのを抑え、最終産物であるフィブリンの生成が抑制され、過度のフィブリン血栓の形成が起こらなくなります。

*他の反応系には組織因子経路インヒビターとアンチトロンビンがありますが、アンチトロンビンに関しては、当協会ホームページのアンチトロンビン製剤「血液の凝固作用と制御の仕組み」をご参照ください。

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2.プロテインC製剤・活性化プロテインC製剤とは

血液の液体成分(血漿)に含まれているプロテインCは、主に肝臓で作られるタンパク質で、血液凝固反応を抑える働き(抗凝固作用)を担っていますが、プロテインCのままでは、その機能を発揮することができません。血液凝固反応で中心的な役割を果たすトロンビンにより活性化プロテインCに変換されて初めて、抗凝固作用を示すことができます。プロテインC製剤は、有効成分であるプロテインCが体内で活性化されます。活性化プロテインC製剤は、血液から精製したプロテインCをトロンビンで活性化し製剤化した医薬品で、静脈注射をするとすぐに働くことができます。

遺伝的な要因でプロテインCの量や働きに異常があると、血液が固まりやすくなり静脈血栓症(静脈に血のかたまりが詰まり、血液がうまく流れなくなる病態)を生じやすくなります。これが先天性プロテインC欠乏症です。

プロテインC製剤・活性化プロテインC製剤はともに過度に血液が固まりやすい状態を改善するために使用されます。具体的には、プロテインC製剤は、先天性プロテインC欠乏症に起因する静脈血栓塞栓症、電撃性紫斑病の治療および血栓形成傾向の抑制に、活性化プロテインC製剤は、先天性プロテインC欠乏症に起因する深部静脈血栓症、急性肺血栓塞栓症、電撃性紫斑病の治療に使用されます。

先天性プロテインC欠乏症の発生頻度は、血栓傾向を示す先天性素因の中では比較的高いといわれています。

遺伝的異常の型にはホモ(同型)接合体とヘテロ(異型)接合体があります()。

ホモ接合体は、両親それぞれから受け継いだプロテインCに関係した遺伝子に異常があることをいいますが、きわめてまれで、人口100万人に1人くらいの頻度と推定されていますが、世界で数十例ほどの報告があるにすぎません。この場合、出生直後から電撃性紫斑病という死亡してしまうような重篤な病態を引き起こします。一方、両親から受け継いだプロテインCに関係した遺伝子の片方に異常がある場合をヘテロ接合体と呼び、思春期後半から青年期にかけて初めて深部静脈血栓症や肺血栓塞栓症のような血栓症を発症します。海外での発現頻度は200~500人に1人(0.2~0.5%)といわれています。日本では0.16%という報告もありますが、実態がまだはっきりしていません。遺伝子異常の型

なお、活性化プロテインC製剤は日本では2000年に、プロテインC製剤は2024年に認可されています(「血漿分画製剤の歴史」参照)。

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3.プロテインC製剤・活性化プロテインC製剤の適応

先天性プロテインC欠乏症に起因する以下の疾患が適応となっています。

<両製剤共通>
1)電撃性紫斑病

プロテインCが先天的に欠乏すると血液が固まりやすくなりますが、皮下などの微小な血管で血栓ができるときに、血液を固めるのに必要な成分である血小板や凝固因子が大量に消費されることで量が少なくなります。その結果、今度は出血しやすくなって急激に皮膚の広範な皮下出血(紫斑)と壊死(体の一部の組織や細胞が死んでしまうこと)を繰り返し、目の出血、脳内出血などを合併して、失明や運動発達の遅れをきたすこともある重篤な疾患です。無治療のままですと、多くは死亡してしまいます。

新生児期に発症するのは、大部分がホモ接合体の方です。出血の繰り返しや合併症を防ぐには早期の診断と活性化プロテインC製剤またはプロテインC製剤による治療が不可欠となります。

生後すぐに見られる出血性壊死

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<活性化プロテインC製剤>
1)深部静脈血栓症

深部静脈血栓症は手術後や長期臥床者(寝たきりの方)、高齢者や妊婦に多い疾患です。しかし若年者で繰り返し血栓症を発症する場合や家族の中に同様の症状の方がいる場合は、先天的に血栓ができやすくなる原因として先天性プロテインC欠乏症を疑う必要があります。

腹部から足の深い部分にある静脈(深部静脈)で血栓が詰まり、その場所で静脈の血流が途絶えてしまう疾患で、血栓が発生した足の変色(チアノーゼ)、腫れ(腫脹)が生じ、痛み、しびれ、熱感などの症状が出現します。

動脈の血栓症ほど緊急性はありませんが、深部静脈にできた血栓(塞栓子)がはがれて肺動脈に移動して詰まると、重篤で時には死亡してしまうような肺血栓塞栓症を合併することがあり、早期の治療が必要となります。しかし、軽度の深部静脈血栓症ではしびれやひざから足首までの違和感程度の自覚症状しかない場合やまったく症状がないことさえあります。なお腕や手にはほとんど発症しません。

治療は血栓溶解療法(急性期)**抗凝固療法、活性化プロテインC製剤が用いられます。

2)急性肺血栓塞栓症

肺動脈に、深部静脈にできた血栓が詰まっておこる疾患で、その症状は呼吸困難、息切れ、胸痛、頻呼吸などですが、重症例ではショック、チアノーゼを伴い、最悪の場合は死亡してしまいます。臨床的な重症度は、塞栓子の大きさと梗塞で壊死に至った領域の広さで決まり、その約90%は深部静脈血栓症が原因とされています。

治療は血栓溶解療法(急性期)**抗凝固療法、活性化プロテインC製剤が用いられます。

血栓溶解療法:できた血栓を薬によって溶かして、血流を回復させる治療法

**抗凝固療法:血栓ができるのを防ぐため、血液の凝固がおこりにくくする薬を使用する治療法

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<プロテインC製剤>
 1)静脈血栓塞栓症

静脈血栓塞栓症は、足から心臓へと血液を戻す血管(静脈)に血のかたまり(血栓)ができて、血管をふさぐ病気です。太ももやふくらはぎ(下肢)の深部の静脈に血栓ができる病気を「深部静脈血栓症」、血栓が下肢から流されて肺に詰まる病気を「肺血栓塞栓症」と呼びます。関連した病気なので、この2つを合わせて「静脈血栓塞栓症」といいます。

 2)血栓形成傾向の抑制

先天性プロテインC欠乏症に起因して発生する血栓の形成を長期補充投与を行うことで抑制します。

4.プロテインC製剤・活性化プロテインC製剤の安全性

(1)ウイルス安全対策について

下記の通り、他の血漿分画製剤と同様の安全対策を実施しておりますが、詳細は当協会ホームページの血液製剤について「血漿分画製剤の安全性」をご参照ください。

1)採血時の問診・診察

2)原料血漿の感染症に関する検査

3)原料血漿の貯留保管

4)製造工程でのウイルス不活化・除去

加熱処理

ウイルス除去膜処理(ナノフィルトレーション)

③ アフィニティー・クロマトグラフィ

5)最終製品の検査

(2)副作用について
1)プロテインC製剤

重大な副作用としては、重篤な過敏症、ヘパリン起因性血小板減少症、出血があります。その他の副作用としては、そう痒、発疹、発熱、めまい等の報告があります。

2)活性化プロテインC製剤

重大な副作用としては、アナフィラキシー様ショックがあります。 その他の副作用としては、肝機能検査値(AST、ALT)の上昇、頭痛、嘔気・嘔吐、倦怠感、熱感等の報告があります。

<新潟県立加茂病院名誉院長 高橋 芳右先生(2024年5月監修)>

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