血液製剤・血漿分画製剤・血液製剤が必要となる病気の種類などを学ぶことができます。
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天疱瘡(てんぽうそう)は、「自己免疫性水疱症(じこめんえきせい すいほうしょう)」に含まれる代表的な水疱性疾患です。自己免疫は、本来、細菌やウイルスから体を守るはずの抗体(免疫グロブリン)が、その人の体に害を与えるようになった状態を言います。そのような抗体を自己抗体(病因抗体)と言います。
天疱瘡は、何かの原因で、皮膚の表皮を作る細胞と細胞を結びつけるタンパク質(デスモグレイン)を攻撃する抗体(抗デスモグレイン自己抗体)が体内で作られるため、表皮の細胞と細胞がバラバラに離れ、そこに体液が集まり、水疱(みずぶくれ)がたくさんできる病気です。天疱瘡は難病で、厚生労働省特定疾患治療研究対象疾患に認定されています。
天疱瘡の症状としては、全身に水疱がたくさん現れ、まるで重いやけどをしたようになります。皮膚の表面から大量の水分が失われたり、水疱が破けたところから感染を起こしたりすることもあります。また、口腔粘膜にびらん(ただれ、浅い潰瘍のこと)が広範囲に生じて、痛みを伴い、食事がとれなくなることがあります。
原因は、血液の中に含まれる免疫グロブリンというタンパク質です。免疫グロブリンは、本来生体に侵入したウイルスやばい菌と闘うために私たちの体の中にあるタンパク質ですが、その一部が自分の皮膚を攻撃する自己抗体になり天疱瘡を発症します。
厚生労働省研究班の調査によれば、現在日本全国に3,500~4,000人の天疱瘡の患者さんがいると推定されています。発症年齢は40~60歳代に多く、また性別ではやや女性に多い傾向があります。
天疱瘡は何も治療しなければ高率で亡くなる(尋常性天疱瘡で死亡率90%以上)病気ですから、治りにくい水疱が体にできた時には、皮膚科専門医に診てもらうことが大切です。
天疱瘡の一般的な治療としては、ステロイド剤の大量内服治療を行います。症状の改善がみられたら徐々に減量し、ステロイド剤の長期大量投与による胃潰瘍、糖尿病、骨粗鬆症など副作用が現れないように注意がはらわれます。
しかし、天疱瘡の患者さんがステロイド内服の治療をうけて十分な効き目が現れない場合、またはステロイド内服量を減量しなければならない場合では、①静注用免疫グロブリン製剤の静注療法、②非ステロイド系免疫抑制剤の内服投与、③血漿交換療法、などの併用療法が行われます。
自己免疫疾患である天疱瘡の治療は、「悪い免疫(自己抗体)」が生体で作られないようにする目的で自己免疫を抑制する治療薬、または血漿交換で物理的に「悪い免疫(自己抗体)」を減少させる治療が行われます。このような治療の際、病原体を退治するのに必要な体内の免疫グロブリンの量も同時に低下させてしまうため、病原体を防ぐ力が落ちて感染しやすくなるなどの問題がでてきます。この点、静注用免疫グロブリン製剤の大量静注療法は、正常な免疫グロブリンを投与する治療ですので、天疱瘡の治療において唯一、正常な免疫のはたらきを抑制することがありません。
静注用免疫グロブリン製剤は、ステロイド剤で十分な効果がえられなかった時、使用されます。通常、1日当たり400mg(8mL)/kg体重を5日間、連続して点滴静脈注射します。患者さんの年齢や病気の状態に応じて、投与量を減量します。
また免疫グロブリン製剤による天疱瘡の症状の改善は、この製剤の投与が終わってから4週後に認められることがありますので、それまでの期間は追加投与を行わないようになっています。
<木沢記念病院院長代行・理事 北島 康雄先生(2009年11月監修)>