血液製剤・血漿分画製剤・血液製剤が必要となる病気の種類などを学ぶことができます。
血漿分画製剤のいろいろ
日本において、血漿由来のアンチトロンビンⅢ製剤は、現在500単位製剤と1500単位製剤が発売され、「先天性アンチトロンビンⅢ欠乏に基づく血栓形成傾向」と「アンチトロンビンⅢ低下を伴う汎発性血管内凝固症候群(DIC)」の効能を有しています。また、一部の製剤は「アンチトロンビンⅢ低下を伴う門脈血栓症」の効能も有しています。
遺伝子組換えのアンチトロンビン製剤は600単位製剤と1800単位製剤が発売され、「先天性アンチトロンビン欠乏に基づく血栓形成傾向」と「アンチトロンビン低下を伴う播種性血管内凝固症候群(DIC)」の効能を有しています。
アンチトロンビンは、生体でトロンビンなどの活性型凝固因子と結合して、凝固反応にブレーキをかけます。そのため、先天性アンチトロンビン欠乏症の患者さんでは血液凝固にストップがかからず、血栓症を生じやすくなります。
先天性アンチトロンビン欠乏症の患者さんに血栓症が発生した場合、通常ヘパリンやワルファリンといった抗凝固薬で治療されますが、血栓症発症の急性期、あるいは妊娠、手術というような血栓症のリスクがある場合には、補充療法としてアンチトロンビン製剤の投与が行われます。
DICは、敗血症、白血病、がん等の患者さんで、凝固が過剰に進み、微小血管内に血栓が多発し、臓器に障害が発生する重篤な病態です。凝固が極端に進むことで、線溶系も活性化し、出血症状も現れます。このように、DICは凝固と線溶の相反する働きが同時に進行する複雑な病態です。
DICは、その基礎疾患により凝固系または線溶系の高まり方が異なるため、治療も異なってきます。敗血症や感染症、外傷、熱傷を基礎疾患とする場合では、凝固の高まりが主に生じます。この結果、血中のアンチトロンビンが消費され、低アンチトロンビン状態となり、さらに病状が進行することになります。このような場合の抗凝固療法としてアンチトロンビン製剤が使用されています。
アンチトロンビンは主に肝臓で合成されることから肝硬変等の肝疾患によりアンチトロンビンの産生が低下すると、血液凝固線溶系のバランスが崩れ凝固亢進状態となり門脈血栓症を生じることがあると考えられています。
血漿由来のアンチトロンビンⅢ製剤の投与により凝固亢進状態を抑制することで二次的な線溶系の作用で門脈血栓を縮小・消失させることが期待できます。
<新潟県立加茂病院名誉院長 高橋 芳右先生(2024年5月監修)>