血液製剤・血漿分画製剤・血液製剤が必要となる病気の種類などを学ぶことができます。
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「播種性(はしゅせい)血管内凝固症候群(DIC)」は、Disseminated Intravascular Coagulation の日本語訳です。播種(はしゅ)とは、畑に種をまくことを意味し、この場合、種に相当するのが血栓です。DICは、血管内に無数の血栓がばらまかれた、凝固の反応が非常に高ぶった状態の病気を指しています。「汎発性(はんぱつせい)血管内凝固症候群」と呼ばれることもあります。
DICは元々、がん、白血病、細菌感染症(この3種類の疾患がDICの約3/4を占める)などの病気(基礎疾患)にかかっている患者さんに生じます。このような基礎疾患がこうじてくると、がん細胞や白血病細胞の表面に凝固反応を開始させる組織因子が現れて、通常の止血時と同様の現象が起きて、全身に血栓が生じます。細菌感染症の場合では、感染が全身の血管や組織に広がった時、「敗血症」と呼ばれますが、このような状態では、細菌の出すエンドトキシン(発熱物質)などが白血球の一種、単球やマクロファージの表面に組織因子を生じさせて凝固反応が始まり、血管内皮細胞の抗血栓性も低下し血栓が生じます。DICでは、このように基礎疾患が悪化して、全身の血管に小さな血液のかたまり(微小血栓)が無数に生じる病態です。細い血管が詰まるため、血流が妨げられて、酸素や栄養などが組織に届かなくなり、腎臓や肺などの臓器障害を起こし、生命に重大な危険をもたらします。
DICの病態はこれだけにとどまりません。血栓が全身に継続して起こり、凝固反応を抑えようとして凝固制御因子のアンチトロンビンがトロンビンに結合し、中和します。また、できた血栓を溶かそうとしてプラスミンが活発に働くようになります。これらの反応が同時に、そして無秩序に全身の血管や組織で進行します。
この結果として、(1)血栓の元になる血小板や凝固因子が体内で大量に消費されるため、それらが量的に著しく減少して、非常に出血しやすくなります。(2)アンチトロンビンも大量に使われますので不足してきます。その結果は凝固反応がさらに進み、血栓ができるのを止める機能が低下し、血栓を作り出す傾向が高まります。(3)プラスミンは血栓を溶かそうとして活発に働き始めるため、本来出血を止めるためにできた血栓をも溶かしてしまい、出血傾向が強まります。
DICは、このように血液を固める凝固作用と固まった血液を溶かす作用(線溶)が同時に無秩序に起こるため、極めて治療の難しい病態の一つです。臨床的には、多くの臓器に微小血栓が無数に生じることやショックのため、組織に血液が行き渡らず虚血性の壊死を起こし、多臓器の循環障害による機能不全を生じます。これに出血症状が加わり、その結果として、致死的影響を体に生じることになります。治療としては、血栓傾向を改善すること、出血傾向を改善することの2種類の相反した対応が必要となります。DICは予後の悪い死亡率の高い疾患です。早期診断、早期治療が重要です。
DICの治療は、(1)基礎疾患の治療、(2)抗凝固療法、(3)補充療法が行われます。(1)基礎疾患の治療は、基礎疾患の違いに応じて、抗がん剤、抗白血病剤、あるいは抗生物質などが投与されます。基礎疾患は治療抵抗性であることが多いため、多くは次の抗凝固療法に頼ります。
(2)抗凝固療法にはいくつかの使用薬剤があります。代表的なものとして、アンチトロンビンと共同して凝固にブレーキをかける役割のヘパリン類が使われます。しかしDICの場合、アンチトロンビンも消費されて減少していくため、70%以下に下がった場合、アンチトロンビン製剤で補充します。またアンチトロンビンの働きと似た、トロンビンや活性化第Ⅹ因子を不活化できる合成タンパク分解酵素阻害薬のメシル酸ナファモスタット、メシル酸ガベキサートが使用されます。2008年には、組換えのトロンボモジュリン製剤が市販され、DIC治療に使用されています。
(3)補充療法は、DICで消費されて減少していく血液成分を体外から補っていく方法です。血小板製剤、凝固因子全般を補うための新鮮凍結血漿製剤、アンチトロンビン製剤が投与されます。
このような治療にもかかわらず、DICの予後は50%ぐらいの寛解率で大変重篤な病態です。
<新潟県立加茂病院名誉院長 高橋 芳右先生(2024年5月監修)>