血液製剤・血漿分画製剤・血液製剤が必要となる病気の種類などを学ぶことができます。
血漿分画製剤のいろいろ
*補体(ほたい)の因子であるC1の働きを抑えるC1インヒビターは、主に肝臓で作られているたんぱく質です。C1インヒビターは多くの機能を持つたんぱく質なので、補体系に働くだけではなく、凝固・線溶系、キニン系などにも働くことで、それらの活性化に対してブレーキ(抑制)をかける重要な役目を担っています。
C1インヒビター欠損の患者さんに対するC1インヒビター製剤の効果が認められています。症状は繰り返し身体のあちこちに浮腫(むくみ)を生じますが、遺伝性の場合がほとんどなので**遺伝性血管性浮腫(HAE)と称されています。この患者さんは、C1インヒビターが全く無いわけではなく、正常の人よりも少ないか、働きが弱い状態にあります。何らかのきっかけがあるとC1インヒビターによるブレーキが効かなくなってしまい、補体系・キニン系が活性化してしまいます。その結果、浮腫が発作的に出現します。発作的な浮腫は、まぶたや唇、皮膚が部分的に急に腫れるだけではなく、腫れが腸や気管、喉頭に出現すると激しい腹痛や呼吸困難をともなうので、時には死に至ることもあります。この発作時に最も有効な治療法はC1インヒビターを補充することです。
C1インヒビター製剤は、血液から精製、濃縮し製剤化した医薬品で、静脈注射によりさまざまな活性に対しブレーキとして即効性に作動するので、急性の浮腫発作を改善することができます。
C1インヒビター製剤は、1979年にドイツで最初に開発され、日本では1990年に発売されましたが、米国では2009年に発売され製剤を待ち望む患者さんのもとに届けられています。HAEの浮腫発作は、原因不明の浮腫やクインケ浮腫という病名のままに見過ごされてしまい、診断までに20年間もかかることがあります。海外での発症頻度は5万人に1人といわれていますが、日本ではまだ実態がはっきりしていません。
前述のとおり、C1インヒビターの量が少なかったり、C1インヒビターがうまく機能していない時には、ブレーキ調整が上手くいかなくなってしまい、正常なときよりも多く水分が体内に移動して部分的に浮腫ができることになります(写真を参照)。この血管性浮腫が起きる原因は、ブラジキニン(キニン系)という血管透過性物質が過剰に産生されるためです。
部分的に血管性浮腫が起きた場所では、通常の状態よりも水分が多く移動しているので腫れています。必要以上の水分が出る原因をブレーキ調整するのが、C1インヒビターです。
遺伝性血管性浮腫(以下HAE)は、医師でも見逃しがちな疾患と言われています。10歳頃から症状がみられ、上述のとおり体のいろいろな場所(まぶた、唇、のど、手足、胃腸など)で急に部分的に浮腫が生じますが、2-3日で自然消失することを繰返します。浮腫が見えない部分にも起きるので、激しい腹痛、悪心、嘔吐、下痢、急性腹症の症状があります。のどの中が腫れると急に呼吸困難におちいる恐れがあります。
HAEの浮腫(むくみ)発作は何らかのきっかけによって発現しますが、その種類は手術・外傷、抜歯、感染、妊娠、経口避妊薬などです。時には長時間座っていた後に足の裏が腫れたり、何もきっかけが分からないこともあります。生涯にわたり発作が発現しない場合もあります。
C1インヒビターを体内に補充することで、HAEの急性発作を改善することができます。
身体各所の発作において適応といえますが、特に顔面の浮腫や腹部症状、喉頭浮腫で呼吸困難をきたしている症例は早期に投与することが必要です。発作の前兆がわかっている場合には早めに投与の準備をすることが可能です。大規模海外臨床試験の結果、HAE発作の部位や重症度にかかわらず迅速に症状を緩和することが実証されており、浮腫発作が緩和し始めるまでの時間は約30分です。
C1インヒビター製剤は、国内ではHAEの治療と短期予防を目的に投与されています。歯科治療などの時には投与できる準備又は投与を行っておき、外科手術のときには手術前にC1インヒビターの投与を行い追加投与の準備などの十分な対応が必要です。
また、十分な効果を得るためには個々の症例の重症度や治療への反応性などによって適宜投与量を調整することが可能です。
経過観察
トラネキサム酸(15mg/kg 4時間毎)、
C1インヒビター補充療法(体重50kg以下500単位、体重50kg以上1000~1500単位静注)
トラネキサム酸(15mg/kg 4時間毎)
C1インヒビター補充療法(体重50kg以下500単位、体重50kg以上1000~1500単位静注)
トラネキサム酸(15mg/kg 4時間毎)、
C1インヒビター補充療法(体重50kg500単位、体重50kg以上1000~1500単位静注)
C1インヒビター補充療法(体重50kg以下500単位、体重50kg以上1000~1500単位静注)
ICUにおける気管内挿管、気管切開
C1インヒビター補充療法の準備の上ならば予防は必要なし
術前1時間前のC1インヒビター補充療法(体重50kg以下500単位、体重50kg以上1000~1500単位静注)
更に2度目のC1インヒビター補充療法の準備をしておく。
下記の通り、他の血漿分画製剤と同様の安全対策を実施しておりますが、詳細は当協会ホームページの血液製剤について「血漿分画製剤の安全性」を参照ください。
1)採血時の問診・診察
2)原料血漿の感染症に関する検査
3)原料血漿の貯留保管
4)製造工程でのウイルス不活化・除去
①加熱処理(パスツリゼーション)
②アフィニティー・クロマトグラフィ
重大な副作用としては、ショック、アナフィラキシー様症状があります。その他の副作用としては、過敏症、発疹、発熱、発赤、注射部位反応の報告があります。
<鶴見西口病院院長 大井 洋之先生(2012年10月監修)>