血液製剤について

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関連疾患

自己免疫疾患

慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー 〔CIDP:Chronic Inflammatory Demyelinating
Polyradiculoneuropathy〕

CIDPは、発症から2ヶ月以上にわたって進行する多発神経炎で、ゆっくりと進行するタイプ(慢性進行型)、再発・寛解を繰り返して進行するタイプ(再発寛解型)、一回しか発症をみとめないタイプ(単相型)があります。

CIDPの主な症状は、四肢の筋力低下として「腕が上がらない」、「階段がうまく登れない」、「転びやすい」、握力が低下して「物をうまくつかめない」、「箸が思うようにつかえない」などが挙げられます。また、四肢の感覚障害として「手足のしびれ感」、「手足がピリピリする」などの違和感を認めることがあります。

CIDPの原因は、現在もなお不明ですが、末梢神経に対する免疫異常により髄鞘(ミエリン)が破壊されることで、いろいろな症状が出現すると考えられています。近年、一部の患者において末梢神経に対する自己抗体が陽性となる場合が報告され、病態の解明が進んでいます。CIDPの診断は、臨床症状と経過、神経学的検査、電気生理学的検査、脳脊髄液検査、神経MRI検査、神経生検における病理学的検査、免疫治療に対する反応性などから総合的に診断されます。診断のためのバイオマーカーは未だ確立されていません。CIDPの患者数は人口10万にあたり1~4人で、国の難病法が定める「指定難病」のひとつであり、一定の要件を満たせば医療費の助成が受けられます。


慢性:2ヶ月以上にわたり進行性または再発性の経過をたどります。

炎症性:手足の運動や感覚をつかさどる末梢神経に原因不明の炎症が生じます。

脱髄性:炎症のために末梢神経の髄鞘(ミエリン)という部分が脱落します。

多発ニューロパチー:神経の炎症が1か所ではなく複数か所に起こります。


CIDPと類似の症状をきたす疾患として、ギラン・バレ−症候群(GBS)が挙げられますが、大きな違いとして、CIDPは発症から2ケ月以上かけて増悪すること、再発と寛解を繰り返す患者が多いのに対して、GBSは4週間以内に症状はピークを迎え、その後は再発することはごく稀であることが挙げられます。


CIDPの治療として、発症時の疾患活動期に対する寛解導入のための治療(導入療法)、ならびに、寛解状態を維持する治療(維持療法)の2つに大別されます。


○疾患活動期に対する寛解導入のための治療(導入療法)

CIDPには3つのファーストライン治療、①副腎皮質ステロイド薬療法、②血漿交換療法、③免疫グロブリン静注療法(IVIg)が確立しており、各治療法での有効性に優劣はないとされています。1つのファーストライン治療に反応しない場合には、原則として残るファーストライン治療を導入し、寛解を目指します。IVIgは治療効果の発現が早いうえ、医療機関を選ばず、簡便に施行できることから、第一選択の治療法として用いられることが増えています。


○寛解状態を維持するための治療(維持療法)

CIDPの臨床症状の改善の維持、さらに末梢神経の保護を目的とした継続的な治療(維持療法)が広く行われるようになってきました。本邦では、静注用免疫グロブリン製剤(IVIg)ならびに皮下注用免疫グロブリン製剤(SCIg)による維持療法が承認されています。


CIDPの治療方針

副腎皮質ステロイド薬療法

免疫異常を伴う病気に対して広く行われている治療法です。一般に、副腎皮質ステロイド薬を経口で服用しますが、症状が重い時や急激な発症時にはステロイド大量点滴療法(パルス療法)が行われる場合があります。これはメチルプレドニゾロン1,000mgを3~5日間、点滴静注する治療法です。多くの場合ではパルス療法後に副腎皮質ステロイド薬の内服に切り替えます。ただし、長期的に副腎皮質ステロイド薬を服用し続けますと、副作用が問題となることがあります。また、糖尿病合併例、感染症の合併が明らかな場合は、第1選択から外れることがあります。

血漿交換療法(PE:Plasma Exchange)

血液成分の中の血漿に含まれる病気の原因物質を分離、除去し、血液を健常な状態に保とうとする治療法です。血漿分離器を用いて血液を血漿成分と血球成分に分け、血漿中に含まれる原因物質(自己抗体など)を除きます。特別な医療施設や医療チームを必要としますので、いつでもどこでも出来る治療法ではありません。

免疫グロブリン静注療法(IVIg)

病気の原因として免疫異常が想定される場合に行われる治療法です。治療目的によって、投与量や投与期間が異なります。

疾患活動期に対する寛解導入のための治療(導入療法)は、免疫グロブリン400mg/kg体重/日を5日間連日、点滴静注する治療法です。IVIgを行っても十分な症状の改善を認めない場合、あるいは一旦、神経症状が改善した後に再び増悪する場合では、再度IVIgを行います。IVIgで治療効果が認められない場合では副腎皮質ステロイド薬療法、あるいは血漿交換療法を選択します。


寛解状態を維持するための治療(維持療法)は、免疫グロブリン1,000㎎/kg体重を1日、または500㎎/kg体重を2日間連日、3週間ごとに点滴静注する治療法です。

IVIgは重篤な副作用が少ないものの、ショックやアナフィラキシー様症状をきたしうることがあり注意が必要です。このほか、急性腎不全や血栓塞栓症なども知られており、高齢者や血栓症の既往のある患者では注意が必要です。

免疫グロブリン皮下注療法(SCIg)

病気の原因として免疫異常が想定される場合に行われる治療法です。IVIgとSCIgでは、免疫グロブリンを投与する経路が異なります。IVIgが静脈に注射することに対し、SCIgは皮下に注射します。IVIgは医療機関での投与となりますが、SCIgは十分なトレーニングを受け、医師により自己注射が可能であると判断された場合には、在宅でも継続的に投与することが可能です。また、SCIgは維持療法の適応のみとなります。

寛解状態を維持するための治療(維持療法)として、免疫グロブリン200~400㎎/kg体重を週に1回、皮下注射します。SCIgは皮下注射であることから、注射部位に発赤や腫脹などの局所性副作用を生ずることがあります。

免疫抑制療法

病気の原因である自己抗体の産生を抑えるための治療法で、他の治療法によっても十分な治療効果が得られない場合において行われる治療法です。免疫抑制剤は単独または他剤と併用し、症状に応じて増減します。

治療法薬の選択にあたり、それぞれの治療薬の有効性や安全性にくわえ、患者の状態や合併症、医療環境などを総合的に判断して決定されます。

<埼玉医科大学名誉教授 野村 恭一先生(2021年3月監修)>

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