免疫グロブリン製剤の適応
抗ドナー抗体陽性腎移植における術前脱感作
・腎移植とは
腎臓病が進行して、腎臓が正常に働くことができなくなった状態が腎不全です。腎不全が進行した状態が続くと体内の水分バランスを保てなくなり、老廃物の排泄などの機能が損なわれることとなります。その場合、自分の腎臓の代わりとなる治療法(腎代替療法)が必要となりますが、その一つが腎移植です。
・移植前に実施する代表的な組織適合検査
代表的な検査として3つご紹介します。
①クロスマッチ検査(リンパ球交差試験)
レシピエント(腎臓をもらう人)とドナー(腎臓を提供する人)の相性を調べます。移植前にドナーのリンパ球とレシピエントの血清を用いて、ドナーに対する抗体、主にHLAに対する抗体がないかどうかを調べる検査です。
一般的に、クロスマッチ検査が陽性の場合、移植後早い時期に強い拒絶反応があらわれ、移植腎がはたらかなくなる可能性が高いとされています。そのためクロスマッチ検査が陽性だった場合、通常は移植を避けますが、脱感作療法を行うことで移植が可能と判断される場合があります。
②抗HLA抗体検査
HLAに対する抗体を持っているかを調べます。さまざまな種類のHLA分子がコーティングされたマイクロビーズと呼ばれる小さな粒とレシピエントの血清を用いて反応が起こるかを調べる検査です。
③HLAタイピング検査
HLA の型を調べて、レシピエントとドナーの適合性を調べます。
HLAの型が違う場合であっても、免疫抑制剤を適切に使用することで、移植した腎臓が問題なく生着します。
クロスマッチ検査や抗HLA抗体検査で陽性と判断された場合、抗ドナー抗体陽性と判定されます。
・抗ドナー抗体陽性とは
抗ドナー抗体は、ドナーに対して特異的に反応する抗体の事です。抗ドナー抗体を持っているレシピエントにそのドナーから腎臓を移植すると、移植された腎臓を異物と認識して攻撃し、排除しようとします。移植において、この反応を拒絶反応といいます。
この反応は、私たちのからだには細菌やウイルスといったようなからだの外から入ってくる物質を認識し攻撃する仕組みである免疫が備わっていることで起こります。過去に妊娠や大量の輸血、移植を経験したことのある人などに見られることが多いとされています。
ドナーとレシピエントで拒絶反応が起きやすいか相性を検査しますが、検査結果により抗ドナー抗体陽性と判定された方は、拒絶反応のリスクが一定以上存在し、移植した腎臓が長く保たれない可能性が高くなります。その相性の度合いによっては、腎移植を望んでも叶わないこともあります。
・脱感作とは
抗ドナー抗体陽性となるような拒絶反応のリスクが高い人に対して、移植前に脱感作療法を個々の状態に応じて実施します。移植前に実施される主な治療法として、体内に存在する自己抗体を除去する方法(血漿交換)や抗体産生を抑える方法(免疫抑制剤)などが用いられています。
・免疫グロブリン療法による脱感作
抗ドナー抗体を持つレシピエントに対して、移植前に免疫グロブリン製剤を大量に投与する治療法です。実際には、単独で使用されることはほとんどなく、血漿交換や免疫抑制剤など、他の治療と組合せて使用されます。
免疫グロブリン製剤を大量に投与することで、免疫反応を調節し、提供された腎臓に対する免疫反応を抑えます。さまざまな作用機序が考えられており、体内での抗体産生を抑える作用や、抗体の分解を早める作用などが報告されています。
<東京女子医科大学病院移植管理科・泌尿器科教授 石田 英樹先生(2021年3月監修)>
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