血漿分画製剤のいろいろ

血液製剤・血漿分画製剤・血液製剤が必要となる病気の種類などを学ぶことができます。

血漿分画製剤のいろいろ

免疫グロブリン製剤

免疫グロブリン製剤の適応

自己免疫疾患〔じこめんえきしっかん〕

特発性血小板減少性紫斑病 〔ITP、とくはつせいけっしょうばんげんしょうせいしはんびょう〕

血小板は、血管が傷ついた時、そこに集ってきて傷口を塞ぎ、出血をくいとめる働きをしています。

ところが何らかの原因で、自分の血小板に結合してこれを壊してしまうタンパク質(「自己抗体」)が出来て、血小板の数が少なくなり、出血し易くなる病気があります。これがITPです。

ITPは通常ステロイド剤で治療されますが、①ステロイド剤が使用できない患者さん、②手術や出産などで緊急に血小板の数を増やしたい患者さん、③血小板が著しく少ない小児の患者さんなどには免疫グロブリン製剤が使用されます。ITPの患者さんに免疫グロブリン製剤を大量に投与することで、血小板が増加し止血しやすくすることができます。しかし免疫グロブリン製剤による血小板増加は一時的で、投与7日前後にピークとなり、その後、徐々に減っていって1ヵ月以内に投与前値に戻ります。そのため緊急治療が必要な場合、例えば、重篤で生命を脅かす出血時や手術前、分娩前等に使用されています。

(詳細は、「自己免疫疾患」参照)

<北九州八幡東病院院長 白幡 聡先生(2012年12月監修)>

川崎病〔かわさきびょう〕

川崎病は主に4歳以下の小さな子どもに起こる、高熱や発疹・いちご舌などの6つの特徴的な症状を伴う急性の疾患です。通常は一過性で回復しますが、一部の子どもには心臓の血管に後遺症を残すことがあり、稀に心筋梗塞による突然死もあります。

治療には、アスピリンや免疫グロブリン製剤が使用されます。川崎病に免疫グロブリン製剤を大量投与することで、早期の解熱と冠動脈障害が著しく減少することが臨床で確認されており、最近は川崎病のほとんどの症例に免疫グロブリン製剤が使用されています。

(詳細は、「自己免疫疾患」 「第3回勉強会」参照)

<日本川崎病研究センター理事長 川崎 富作先生(2008年5月監修)>

慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー
〔CIDP、まんせいえんしょうせいだつずいせいたはつにゅーろぱちー〕

CIDPは、発症から2ヶ月以上にわたって進行する多発神経炎で、ゆっくりと進行するタイプ(慢性進行型)、再発・寛解を繰り返して進行するタイプ(再発寛解型)、一回しか発症をみとめないタイプ(単相型)があります。

CIDPの典型的な症状は、左右対称性で、足の脱力が出現するため「足に力が入らない」、「転びやすい」、手の脱力のため「物をうまくつかめない」、「箸が思うように使えない」、また、感覚障害により「手足のしびれ」、「ピリピリする痛み」などを認めることもあります。

CIDPの原因は現在もなお不明です。末梢神経の髄鞘(ミエリン)を標的に攻撃してしまう免疫異常が推定されていますが、その発症メカニズムの詳細は分かっていません。近年、一部の患者において末梢神経に対する自己抗体が発見され、病態の解明が進んでいます。

CIDPの患者数は人口10万にあたり1~4人で、国の難病法が定める「指定難病」のひとつであり、一定の要件を満たせば医療費の助成が受けられます。


CIDP発症時の疾患活動期治療(導入療法)として、①副腎皮質ステロイド薬療法、②血漿交換療法(PE)、③免疫グロブリン静注療法(IVIg)、さらに、補助的治療として免疫抑制療法があります。①、②、③の治療の有効性はいずれも60~70%です。免疫抑制療法は①~③で明らかな改善を認めない場合に用いられる治療法です。IVIgは治療効果の発現が早いうえ、医療機関を選ばずに簡便に施行できることから、第一選択の治療法として用いられることが増えています。

近年、導入療法によって筋力低下の改善を認めた後、運動機能の進行抑制を目的とする維持療法が承認されました。この維持療法は、免疫グロブリン静注療法(IVIg)、または免疫グロブリン皮下注療法(SCIg)を定期的に反復投与する治療法です。これらの治療でも効果不十分な場合では、副腎皮質ステロイド薬や免疫抑制剤などを併用することもあります。

CIDPの経過は、治療効果に依存し、予後もさまざまです。患者によっては長期間にわたる継続的な通院治療が必要になる場合もあります。治療薬の選択は、それぞれの治療法の有効性や安全性にくわえ、患者の状態や合併症、医療環境などを総合的に判断して行われます。

(詳細は、「自己免疫疾患」参照)

<埼玉医科大学名誉教授 野村 恭一先生(2021年3月監修)>

ギラン・バレー症候群〔GBS〕

GBSは、ウイルスや細菌感染などを契機に、自己の末梢神経に対する抗体(自己抗体)や自己の神経を傷害する細胞が生じ、これらにより自己の運動(ときに感覚)神経が障害される急性の末梢神経の病気です。病気の初期には足の筋力低下により転びやすいなどの症状を

認め、次第に上半身にも運動麻痺が進行し、手の脱力も出現します。また、時に脳神経も障害され、物が二重に見える、顔面筋の麻痺、飲み込みが障害されることもあります。通常は、発症後4週間ほどからゆっくりと回復しますが、重症な症例では呼吸筋も障害され、手足の筋肉の萎縮を認め、起立・歩行障害などの後遺症を残す場合もあります。また、3~5%の症例では不整脈、呼吸不全により死亡することもあります。患者数は本邦では人口10万にあたり1.15人で、うち重症例は約20%です。

GBSの治療は、血漿交換療法(PE)、免疫グロブリン静注療法(IVIG)などがあります。副腎皮質ステロイド薬療法は従来用いられましたが、現在は単独療法としては行われません。GBSと診断すれば、できるだけ早期からPEあるいはIVIGによる治療を行います。

(詳細は、「自己免疫疾患」参照)

<埼玉医科大学教授 野村 恭一先生(2008年5月監修)>

⑤ 天疱瘡〔てんぽうそう〕

2008年10月、厚生労働省から静注用免疫グロブリンの1製剤に天疱瘡が新たな効能として承認されました。

天疱瘡とは皮膚の表皮細胞同士、あるいは粘膜の上皮細胞同士の結合が解けて、バラバラに離れ、できた細胞間の隙間に組織液が貯留し、水疱がたくさん現れる病気です。全身の水疱で重いやけどをしたようになり、皮膚の表面から大量の水分が失われたり、感染を起こしたりすることもあります。また、口腔粘膜にびらんが広範囲に生じて、痛みを伴い、食事がとれなくなることがあります。厚生労働省研究班の調査によれば、日本全国に3,500~4,000人の患者さんがいると推定され、発症年齢は40~60歳代に多く、また性別ではやや女性に多い傾向があります。

天疱瘡の一般的な治療としては、ステロイド剤の大量内服治療が行われますが、この治療に十分反応しない場合、またはステロイド内服量を減量しなければならない場合などでは静注用免疫グロブリン製剤の投与や免疫抑制剤の内服投与、血漿交換療法などの併用療法が行われます。

天疱瘡のイラスト

(詳細は、「自己免疫疾患」参照)

<木沢記念病院院長代行・理事 北島 康雄先生(2009年11月監修)>

⑥ 好酸球性多発血管炎性肉芽腫症〔Eosinophilic Granulomatosis with PolyAngiitis:EGPA〕

好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)は血管の炎症がきっかけとなって起こります。炎症によって体の中のいろいろな臓器の血管がつまったり、また血管が破れて出血するために、種々の病状を示します。全身症状としては発熱、体重減少などが現れます。また神経障害による痛みやしびれ、手足の麻痺のほか、脳卒中、心筋梗塞が生じることがあります。

EGPAの原因は良く分かっていません。何らかの抗原刺激を受けて体の免疫系が過剰に反応しているためと考えられています。日本国内には、約450名のEGPAの患者さんがいると推定されています。EGPAは、難治性疾患(難病)に指定されています。

EGPAの治療は、①血管の炎症を抑えるためステロイド薬を使用します。②ステロイド薬で改善しない場合、または血管炎による大きな梗塞や出血の場合、免疫抑制剤を用いることがあります。③ステロイド薬を使用しても改善しなかった神経障害からの痛みや運動障害には、免疫グロブリン製剤を用います。1日当たり400mg/kg(体重)を5日間、連続して点滴静脈注射します。

EGPAは、免疫グロブリン製剤の8番目の適応疾患として、2010年1月厚生労働省から承認されました。



【EGPA発病の経過】

EGPA発病の経過

<杏林大学第一内科教授 有村 義宏先生(2010年7月監修)>

⑦ 多発性筋炎・皮膚筋炎〔PM/DM:Polymyositis/Dermatomyositis〕

多発性筋炎・皮膚筋炎は、筋肉に炎症が起こり、主として体や腕・大腿など体に近い筋肉の筋力が低下する疾患です。多発性筋炎ではなく多発筋炎と呼ぶ先生もいますが、同じものです。

全身症状としては、「からだがだるい、疲れやすい」などの症状がゆっくりとあらわれます。筋肉の症状としては、「高いところに物を持ち上げられない」「階段の昇降が不自由」「トイレでしゃがむと立ち上がるのがたいへん」「ものが飲み込みにくい」「話しづらい」などが出始めます。熱や関節痛などを伴うこともよくあります。

皮膚筋炎では、皮疹が顔や手を中心にあらわれます。紅色の発疹で、しばしばむくみを伴います。かゆみがないのが特徴的という記載もありますが、実際は多くの方がかゆみを訴えます。顔の皮疹は、まぶたや鼻唇溝などに多く、手は、指の関節の外側、爪の生え際などに現れます。その他、前胸部、肘、膝関節の外側にもあらわれることがあります。物とこすれるところ、陽に当たるところに多いようです。

病気の原因は免疫力が強すぎて自らの筋肉を攻撃することです。患者数は臨床個人調査票を用いた解析では18,000人程度で、毎年1,000人程度の方が発病し、2/3は皮膚筋炎と考えられています。男女比は、1:3程度で女性に多い傾向があります。一部の患者さんに認められる合併症として、見逃してはならないのが間質性肺炎と癌などの悪性腫瘍です。

多発性筋炎・皮膚筋炎の治療は、副腎皮質ステロイド薬が中心です。副腎皮質ステロイド薬を用いても改善しない場合や副作用で継続困難な場合には、免疫抑制剤を併用します。これら治療で十分な効果が認められない場合は、静注用免疫グロブリン製剤が使用されます。1日当たり400mg/kg(体重)を5日間連続で点滴静脈注射することが保険認可されています。静注用免疫グロブリン製剤投与後に、症状の再発や悪化などがみられた場合には、副腎皮質ステロイド薬の増量や免疫抑制剤変更を考慮しつつ、初回投与から4週たてば静注用免疫グロブリン製剤を再投与することも可能です。

鼻唇溝:「鼻から左右の唇の端にかけての深い溝」です。法令線(ほうれいせん)と呼ばれることもあります。

<東京医科歯科大学膠原病・リウマチ内科准教授 上阪 等先生(2012年2月監修)>

⑧ 重症筋無力症〔MG:Myasthenia Gravis〕

重症筋無力症は、神経と筋肉が接する場所(神経筋接合部といいます)を標的とした自己抗体により発症する自己免疫疾患です。この病気は、運動を継続すると早く疲れ、休息により筋力が回復します。症状は、朝軽く夕方や夜に強くなり(日内変動)、また日によっても症状が変動(日差変動)する特徴があります。症状は、まぶたが下がる(眼瞼下垂)、ものが二重に見える(複視)などの眼の症状が最初にあらわれることが多く、眼の症状のみにとどまる眼筋型と手足や飲み込む力などの全身の筋力も低下する全身型があります。全身型の場合、クリーゼ(呼吸筋麻痺をともなう呼吸困難な状態)に注意が必要です。

重症筋無力症の診断のためには自覚症状や臨床所見の他に、エドロフォニウムテスト、誘発筋電図、自己抗体の有無をみる血液検査を行います。重症筋無力症には胸腺異常(胸腺肥大や胸腺腫)を伴うことが多く、胸腺の画像検査も行います。

治療方針を立てる際には、発症年齢、眼筋型か全身型か、重症度、胸腺異常があるかどうか、自己抗体の種類などを総合的に判断します。治療は、症状軽減目的に抗コリンエステラーゼ薬を用い、長期的治療としてステロイド薬や免疫抑制剤、必要な時期に胸腺(腫)摘除を組み合わせます。これらの治療で十分な効果が得られない場合や、症状の増悪をきたした場合には一時的な改善を期待し、血液浄化療法や免疫グロブリン療法を考慮します。

<独立行政法人国立病院機構宇多野病院 小西 哲郎先生(2012年8月監修)>

⑨ 多巣性運動ニューロパチー〔MMN:Multifocal Motor Neuropathy〕

MMNは、手や足に力が入らなくなり(筋力の低下)、筋萎縮(きんいしゅく)と呼ばれる“やせ”症状が目立つ病気です。筋力低下は手指に多く、左右で症状が一致しないことが特徴的です。通常、症状はゆっくりと進行し、しびれ感などの感覚異常が起こることは非常にまれです。

日本の患者数は約400人と推定され、発症時の年齢は10歳代後半から60歳代までに見られますが、40歳代が最も多いことが報告されています。

MMNがどのように発症するのか、その原因はわかっていませんが、手足などの末梢神経に対する免疫反応の異常が関わっていると考えられています。

〔治療法〕

MMNの第一選択治療法は、経静脈的免疫グロブリン療法(IVIg)とされています。IgGと呼ばれる免疫グロブリンを静脈注射で投与する治療法です。国内外の臨床試験で有効であることが報告されています。

そのほかの治療法として、免疫抑制療法や血漿交換療法などが検討されます。なお、副腎皮質ステロイド薬はMMNの治療には効果がないため推奨されていません。

<埼玉医科大学名誉教授 野村 恭一先生(2021年3月監修)>

⑩ 視神経炎〔ON;Optic Neuritis、ししんけいえん〕

視神経炎は視神経に炎症が起こることにより、視力の低下や視野の異常が起こる病気です。視神経とは、眼球の後ろから脳に向かって伸びる神経の束のことで、眼球が集めた情報を脳へ送る働きをしています。

視神経に炎症が起こる原因は不明なことが多いですが、自分の体を外敵から守る役目を持つ抗体が、自分の視神経を攻撃してしまうことで視神経炎が生じることがあります。

視神経炎は、多発性硬化症や視神経脊髄炎などの病気の症状の一つとして生じるものと、視神経以外に異常のない特発性*視神経炎があります。(*原因がわからない)

視神経炎の症状は片眼だけの場合と、両眼の場合があります。視力低下のほか、視野の一部が欠けたり、全体がかすんだり白っぽくなったりします。診断のために必須とされるMRI 検査のほか、症状の程度を把握したり、治療の効果を判断したりするために、いくつかの検査が行われます。

視神経炎で行われる基本的な治療は、ステロイドパルス療法です。ステロイドパルス療法で効果が得られない場合に、血漿交換療法や免疫グロブリン療法が行われます。そのほか、患者さんの状態に合わせて飲み薬が処方されることもあります。

視力は治療により、通常2~3ヵ月以内に回復しますが、完全に回復しないこともあります。また、回復後に視神経炎が繰り返し起こる(再発する)こともあります。なかには自然に回復する場合もありますが、治療が遅れると後遺症が強く残ることがあります。

<北里大学医療衛生学部視覚機能療法学教授 石川 均先生(2021年3月監修)>

⑪ スティーブンス・ジョンソン症候群[SJS:Stevens-Johnson Syndrome]と中毒性表皮壊死症[TEN:Toxic Epidermal Necrolysis]

スティーブンス・ジョンソン症候群(SJS)と中毒性表皮壊死症(TEN)は、突然の高熱とともに、全身の皮膚と粘膜に発疹と水ぶくれを生じる病気です。発疹や水ぶくれの範囲が少ない場合にSJS、発疹や水ぶくれの範囲が広い場合がTENと呼ばれます。

どちらの疾患も、何らかの薬を服用後に発症することがほとんどであり、重症薬疹として位置づけられてもいます。重症薬疹というのは、命にかかわるほど重篤になる全身の薬疹です。

高熱・のどの痛み・全身倦怠感などとともに皮膚や粘膜に病変が出現します。皮膚では全身に大小さまざまな紅斑、水疱、びらんが多発します。水疱はすぐに破れてびらんになります。口唇・口腔粘膜、鼻粘膜には発赤、びらんが出現し、疼痛が生じます。眼では結膜の充血、眼脂(めやに)などが出てきます。尿道や肛門周囲にもびらんが生じて出血をきたすことがあります。進行がはやく症状は急激に拡大します。時に上気道粘膜や消化管粘膜を侵し、呼吸器症状、消化管症状を生じることがあります。なお、SJSとTENは一連の病態と考えられ、TENの症例の多くがSJSの進展型と考えられています。

【図-1:SJS】

【図-1:SJS】


【図-2:TEN】

【図-2:TEN】

その多くは薬が原因と考えられていますが、一部のウイルスやマイコプラズマ感染にともない発症することも知られています。発症メカニズムについては、医薬品などにより生じた免疫・アレルギー反応によるものと考えられていますが、さまざまな説が唱えられており、いまだ統一された見解は得られていません。

原因と考えられる薬は抗生物質、解熱消炎鎮痛薬、抗てんかん薬などがあります。

まず病気の原因として疑われる薬はすぐにすべて使用を中止します。皮膚や粘膜の症状に加えて肝臓や腎臓などの様々な臓器にも障害が起こるので、この状態も考慮しながら、副腎皮質ステロイド薬を中心に治療します。短期間に大量の副腎皮質ステロイド薬を点滴で投与する治療(ステロイドパルス療法)が行われることもあります。また、免疫グロブリン製剤を大量に投与することや、血漿を入れ換えるような血漿交換療法を併用して治療することがあります。経過中に細菌感染症や多臓器の障害がしばしば起こるので、採血など頻回に行って治療を進めます。


主な治療法

・副腎皮質ステロイド療法

・ステロイドパルス療法

・免疫グロブリン製剤大量静注療法

・血漿交換療法


免疫グロブリン製剤大量静注療法は2014年7月からこの疾患の治療に用いることができるようになった比較的新しい治療法であり、有用な治療法の一つです。

臓器の機能が失われたり、重症な感染症などを併発したりすることがあります。SJSの死亡率は約3-10%ですが、TENでは致死的状態に陥るため死亡率は約20%と報告されています。視力障害、まぶたと眼球結膜の癒着、ドライアイなどの眼の後遺症を残すことがあります。また、閉塞性細気管支炎による呼吸器の障害や外陰部癒着、爪の脱落、変形を残すこともあります。

<杏林大学皮膚科学教室教授 塩原 哲夫先生(2016年3月監修)>

⑫ 水疱性類天疱瘡〔すいほうせいるいてんぽうそう〕について

【類天疱瘡(後天性表皮水疱症を含む)とはどのような病気ですか】

類天疱瘡(後天性表皮水疱症を含む)は、皮膚の表皮と真皮の境にある基底膜部のタンパクに対する自己抗体ができることで全身の皮膚や粘膜にかゆみを伴う浮腫性紅斑(膨隆した赤い皮疹)、緊満性水疱(パンパンに張った破れにくい水ぶくれ)、びらんができる病気です。

また、患者数は全国で7,000~8,000人*ほどと推測されていますが、軽症の方を含めるとさらに患者数は多いと予想されます。

*出典)「稀少難治性皮膚疾患調査研究班」

【この病気ではどのような症状がおきますか】

類天疱瘡(後天性表皮水疱症を含む)にはいくつかの種類があります。

そのなかの大部分の症例は水疱性類天疱瘡に分類され、一部の症例が粘膜類天疱瘡や後天性表皮水疱症に分類されます。

水疱性類天疱瘡では、からだや手足にかゆみを伴う浮腫性紅斑(膨隆した赤い皮疹)や緊満性水疱(パンパンに張った破れにくい水ぶくれ)、びらんができます。

眼や口腔の粘膜にも症状が生じることもあります 。


類天疱瘡 -水疱性類天疱瘡 (全身に紅斑、水疱やびらんを生じる)
-後天性類天疱瘡 (外力のかかるところに水疱やびらんを生じる)
-粘膜類天疱瘡 (主に眼粘膜にびらん、口腔粘膜に口内炎や水疱を生じる)

皮膚のじんましん様紅斑と水疱

炎症型(水疱の周りに赤みがある) 非炎症型(水疱の周りに赤みがない)

口内炎 目のびらん

【この病気の原因はわかっているのですか】

自分の細胞や組織に対して自己抗体が産生され発症する水疱症(自己免疫性水疱症)です。

具体的には自分の体の表皮細胞と真皮をつなぐ結合部位を構成するタンパク(BP180、BP230、7型コラーゲンなど)に対する抗体が生じ、この結合が壊されることにより症状が現れます。

このような自己抗体が作られる原因はまだわかっていません。

類天疱瘡は、他の人にうつることはありません。

【ふだん飲んでいる持病の治療薬でこの病気が起こることはありますか】

この病気は、薬剤で誘発されることがあるので内服中の薬を受診された皮膚科の先生に申告してください。

【この病気にはどのような治療法がありますか】

病気の原因となる自己抗体の産生と働きを抑える免疫抑制療法を行います。

軽症の場合は副腎皮質ホルモン(ステロイド)外用剤や炎症を抑える内服薬などで治療します。

中等症・重症の場合は、ステロイド内服剤が治療の中心になります。

ステロイドの投与量を減らして副作用の頻度を下げるために免疫抑制剤を併用することもあります。

病気の勢いを抑えきれない場合には、さらにステロイドパルス療法、免疫グロブリン製剤の大量静注療法や血漿交換療法という治療法を併用しながら治していきます。

免疫グロブリン製剤の大量静注療法は2015年11月からこの疾患の治療に用いることができるようになった比較的新しい治療方法の一つです。

【この病気はどういう経過をたどるのですか】

治療を開始後、病気の勢いが落ち着いてきたら、治療薬を少しずつ減らしていきます。

水疱性類天疱瘡は、治療によって比較的早期に寛解状態注1)に至る患者さんが多いですが、治療が効きにくい患者さんや、再発を繰り返す患者さんもいます。

最終的に治療を中止して治癒注2)する患者さんもいます。

治療を突然中断すると再発することがあるので、長期にわたって通院する必要があります。

注1) 寛解状態:薬を飲んでいるが、病気による症状が消失した状態。

注2) 治癒:病気が完全に治った状態。

【この病気は日常生活でどのような注意が必要ですか】

からだに水疱びらんができている時期は、やわらかい素材でできた衣服を着用します。絆創膏やテープを直接皮膚に貼ると、はがすときにびらんになりますので、包帯やサポーターなどで固定します。口内炎があるときは、やわらかく調理した食事を食べます。

薬を飲み忘れると治っていた症状が再発することがあるので、飲み忘れないように工夫します。病気が軽快し薬の量が減ると症状は軽快します。

ステロイド内服治療をしている場合は、ステロイドの副作用として、感染症にかかりやすい、糖尿病、肥満、骨粗鬆症、胃潰瘍、高血圧、白内障などに注意が必要です。

定期検査を受け、必要に応じて治療を受け、副作用を予防しましょう。

副作用はすべての人に起きるわけではありません。

症状が落ち着いてきたら、食べ過ぎに注意するとともに、適度な運動を心がけましょう。

<川崎医科大学総合医療センター皮膚科学教授 青山 裕美先生(2017年3月監修)>

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