血液製剤・血漿分画製剤・血液製剤が必要となる病気の種類などを学ぶことができます。
血漿分画製剤のいろいろ
血友病の患者さんが第Ⅷ因子製剤又は第Ⅸ因子製剤で治療を受けた場合、一部の患者さんは、自分に輸注された第Ⅷ因子または第Ⅸ因子を異物ととらえ、これらを排除する免疫の機構が働きます。このような状態を患者さんにインヒビター(阻害物質)が生じたと言います。インヒビターの本体は、血友病Aの場合は第Ⅷ因子に対する抗体(=免疫グロブリン)で、血友病Bの場合は第Ⅸ因子に対する抗体(=免疫グロブリン)です。いったん患者さんの身体にこうした抗体ができた場合、第Ⅷ因子や第Ⅸ因子を輸注しても、抗体と製剤が反応し、製剤中の第Ⅷ因子又は第Ⅸ因子が中和されて、製剤の効果が弱くなったり、効果が全くなくなることもあります。血友病の治療にとってインヒビターの発生は、現在も大きな問題の1つです。
インヒビターの程度が弱い場合は、抗体を中和する量に止血に必要な量を上乗せして第Ⅷ因子または第Ⅸ因子で治療する方法が行われます。この療法を中和療法と呼びます。しかし、インヒビターの程度が強い場合は凝固カスケード(「血が止まる仕組み、2)二次止血」を参照)の外因系または下流で働く、活性化した第Ⅱ因子、第Ⅶ因子、第Ⅸ因子、第Ⅹ因子を使い、内因系の第Ⅷ因子、第Ⅸ因子の工程を迂回(バイパス)することで止血を行います。このため、このタイプの製剤は、「バイパス(迂回路)製剤」とも呼ばれます。日本国内では、(1)血漿由来活性型プロトロンビン複合体製剤(APCC製剤)、(2)遺伝子組換え型活性化第Ⅶ因子製剤(rFⅦa製剤)と(3)乾燥濃縮人血液凝固第Ⅹ因子加活性化第Ⅶ因子製剤(FⅦa/FX製剤)の3種類の製剤が使用されています。
(正常な凝固作用の流れ(カスケード理論)はこちらの図をご覧ください。)
この製剤は、もともと血友病B患者さんに使われている第Ⅸ因子複合体製剤を出発原料にしています。第Ⅸ因子複合体(PPSB)製剤をさらに製造工程で処理し、その中に含まれる凝固因子を活性化します。このタイプの製剤の場合、第Ⅱ因子、活性化第Ⅹ因子がインヒビターを迂回して、血を止める働きの本体であると考えられています。
人の第Ⅶ因子遺伝子を組み込んだベビーハムスター腎細胞(BHK)を用い、第Ⅶ因子を発現させて作った製剤です。第Ⅶ因子は、人の組織と血管が障害を受けた時に出現する組織因子(第Ⅲ因子)で活性化を受け、第Ⅷ因子、第Ⅸ因子の下流に作用するため、バイパス効果により止血が可能となります。
国内の献血血漿からクロマトグラフィーという分離法で、第Ⅶ因子と第Ⅹ因子を別々に取り出したあと、精製し(第Ⅶ因子は活性化を含む)、最終的にこの2つの凝固因子を混和してつくられた製剤です。活性化血液凝固第Ⅶ因子と血液凝固第Ⅹ因子を含んでおり、迂回する経路(バイパス)を使って止血過程を進めます。
<聖マリアンナ医科大学小児科学特任教授 瀧 正志先生(2016年6月監修)>