血漿分画製剤のいろいろ

血液製剤・血漿分画製剤・血液製剤が必要となる病気の種類などを学ぶことができます。

血漿分画製剤のいろいろ

組織接着剤

液状組織接着剤

4)液状組織接着剤の製法と安全性

液状組織接着剤には人の血漿から精製した成分(3種類のタンパク質)とウシの肺から精製・抽出(ちゅうしゅつ)した成分(タンパク質)が使用されています。

(1)ヒト血漿由来成分のウイルスに対する安全性

液状組織接着剤のヒト血漿由来成分タンパク質は、次のような流れで製造されます。

ヒト血漿由来成分のウイルスに対する安全性

人の血漿から得られたフィブリノゲン、トロンビン、第ⅩⅢ(じゅうさん)因子のウイルスに対する安全対策は以下のような方法が採られています。

①原料血漿のスクリーニング

採血の際は、医師などによる問診が実施され、採血基準に適合する供血者のみを対象として、採血がなされます。その後、ウイルス等の感染症関連の検査を行い、合格した血漿だけが原料として製造に使われます。

②製造工程でのウイルス不活化・除去

原理の異なる2つ以上のウイルス安全対策が採られています。具体的には、次のようなウイルス不活化・除去工程の選択や組み合わせが行われています。

(ⅰ)加熱処理

有効成分が壊れないよう、一定の時間と温度で加熱し、ウイルスを不活化させる方法です。60℃で10時間の液状加熱、または65℃で4~6日の乾燥加熱が使われています。

加熱処理
(ⅱ)ウイルス除去膜処理(ナノフィルトレーション)

ウイルスの大きさは20~300nmですが、ウイルスを除去するために目の細かい膜(ウイルス除去膜)を用いて血漿タンパク質を回収します。

ウイルス除去膜処理の例
(ⅲ)精製方法によるウイルス不活化・除去

クロマトグラフィー※1では、目的タンパク質をその他の成分から分離(ぶんり)すると同時にウイルスの除去もできます。

※1 クロマトグラフィーは、固定相(例えば、ろ紙や樹脂など)を移動相(例えば、液体やガス)が通過する時、移動相に含まれる物質の種類により通過速度が異なることを利用して、移動相にある複数の物質を分離する方法です。

以上のように、原料となるヒト血液を採取する際には、問診、感染症関連の検査を実施するとともに、製造工程で不活化・除去処理等を実施し、感染症に対する安全対策を講じています。しかし、ヒト血液を原材料としているのでウイルス等の感染症伝播(でんぱ)のリスクを完全に排除することはできないため、病気の治療上の必要性を十分に検討した上で製剤を使用すること、とされています。

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(2)ウシ由来物質(アプロチニン)のウイルスの不活化・除去

液状組織接着剤にはウシ由来のタンパク質が含まれていますが、それらタンパク質は次のような工程で作られ、安全対策が講じられています。

①ウシアプロチニンの製法とウイルス不活化・除去
ウシアプロチニンの製法とウイルス不活化・除去
(3)最終製品の品質検査

製造された製剤は最終の品質検査※2を行い、合格したものだけが製品として出荷されます。

※2 最終の品質試験:pH試験、主成分含量試験、同定試験、無菌試験、異常毒性否定試験、発熱試験など

(4)液状組織接着剤の副作用

重大な副作用としては、ショック、黄疸(おうだん)、肝機能障害が報告されています。この他にも吐き気、発熱、頭痛、胸痛等の報告があります。

<慶應義塾大学医学部名誉教授 小林 紘一先生(2011年7月監修)>

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